七味をかける

日がなごろごろ

暮らしの中にある宇宙ー季節編ー


COMITIA140で頒布した「暮らしの中にある宇宙ー季節編ー」、は普段音楽を作ったり、絵を描いている13人が季節について書いたアンソロジーです。

光栄なことに前回(その時はちなみに音楽がテーマでした)に引き続き表紙を描かせていただきました。
それぞれのお話に宛てて描いているのですが、どんなこと考えながら描いたかをまとめました。
大きなネタバレはないですが、私の感想・目線が混じっている点はご了承下さい……!

主催のあひるひつじさんによる紹介はこちら
https://note.com/ahiru_hitsuji/n/n33e44259d810


◼️記憶/もちうめさん

春の記憶についての文章。
新芽のような感性といいますか、何気ない気づきがもちうめさんらしい言葉選びで書かれています。
人物が印象的であるようにしつつ、文体のさりげなさや気取らなさの魅力が出したかったので、シンプルな線で描くことを心がけました。
服装は完全に趣味です。刺繍襟。


◼️往来/テクナンさん

通学時間の風景について。
文中で「風景が色彩に乏しい」というような書き方がされていたのですが、その分周囲への見方がフラットなようで温かいことや、心地の良い距離感、そして一瞬の鮮やかさが印象に残る文章でした。
そこから褪せていて、かつ、柔らかい感じを出したくてこのような色選びと曲線に。

テクナンさんのあとがきです、こちらも本文読了後ぜひ……!
https://note.com/technan3821/n/n70c40036c91e


◼️ひとみっか/近藤永理さん

春にまつわる50首の句。
なんとなく重なっているような情景に連句というような趣きもあり、そこから枝葉が重なった木の影がゆるやかに広がっていく構図を作りました。
それから、漢字とひらがなの使い分けが浮遊感があって素敵だと思ったので、輪郭に硬さと柔らかさどちらも出せるように気を配りました。


◼️やどかり/スヤリ

私が書いた文章です。
じめじめした季節にやってきた生き物の話です。
テーマとして部屋の中の異物感、というのが一応あったので鬱々さをビニール傘、なんだかわからぬパンドラの箱としてダンボールを描いています。
一番手抜きの絵です(照れがあったともいう)が、まあうまくまとまったのではないかと……。


◼️すごい速さでまわる/tdさん

すごい速さで夏が過ぎていくように子供から大人になっていくことを書かれています。
「その時の考え」と現在地での客観視がすごく良くて、それが佇まいで出せれば、と思ってポージングや服装を考えました(時計をつけるか否かとか)。
大人になるにつれて考えの深度が深まっていくように、海の面積を広げています。


◼️晩夏の蛍/あきつかおるさん

帰省した夏の話。
文量があるのに勢い・テンポが良く、どんどん読み進めたくなる感じを斜めの構図とやや荒い筆致にすることで表現できないか期待しています。
会話や表現はコミカルだけれども得体のしれなさもある文章だということと、人魚がキーの文章なので、一番目立つように鯉を生々しい朱で描きました。

あきつさんは挿絵も描かれています。とっても素敵です!
https://twitter.com/sayonara7heaven/status/1521080750296416257?s=21

◼️夏の暮れにやってきた君/えびせんさん

夏の暮れの詩。そのため、入道雲と鱗雲が推移しているような空模様にしました。
読んでいるときに感じる「水平線を見ているような穏やかさ」を横に広がるようや構図で、「心のざわめき」を波のうねりで表現しています。
色彩や光がきらきら透き通っていて素敵な文章なので、色に悩みました……。


◼️愛してやまない女の子/小林透さん

ある女の子が好きな男の子の文章。
これは完全に色彩が印象的で描きたい場面があったので、そこから組み立てています。
拗ねたような男の子の文章でもあるので、視線が行ったり来たりするような階段の切り取り方、でもどこか素直さを出したかったのでライティングはスポットライトを当てるようにかなりはっきりとつけています。


◼️こみち/dyism!さん

色が重なる秋の詩。
温度は低いのですが、その分心地よさ、洒脱さのある文体です。春じゃなくて、秋の温度。
軽口の応酬が微笑ましかったので、その印象を積み重なる落ち葉の色彩に仮託しています。
木陰の描写が素敵なので描くかかなり迷いましたが、すっきりとした読後感なのでベンチの影のみに。


◼️雪/ぺこたぺちかさん

雪の日の記憶について。
遠くを見るような、振り返っているような文なので、静かなブルーグレーを基本色に(雪も映えるし)。
一方ではっきりとした人柄が見える文体でもあるので、アクセントとして赤を入れています。
それは建前として、ミラノ巻きのマフラーは絶対かわいいのでどうにか絵に入れたかった。


◼️白黒/あひるひつじさん

タイトル通り白と黒の情景。
字間の密度が高いことや「書く」ことがテーマの文章でもあるので、本、原稿用紙、メモ、そして鉛筆を文中から抜き出しました。
文章が読み手の受け取り方やタイミングで違うものになるように、原稿用紙に落ちる影は人の形としても見えるよう象っています。


◼️エンチャント・ファイア/ぽんかんさん

晦日の夜の文章。
冬は寒く、そして暑い。交わる瞬間の色めき。そんなところを動きのある構図で表現できればと思い、こんな構図になりました。色味も暗いからこそなおさら光の明るさが際立つように調整。
軽トラも描きたかったのでギリギリまでモチーフは悩みましたが、結果、結構納得行っています。


◼️冬の夢の国/粟屋やわ子さん

冬の夢の国レポート。
寂しいけど暖かい朝の空気というものを表現したかったので、かなり色彩に気をつけて描いた絵です。
某夢の国のモノレールに寄せて(あくまで寄せて)描いています。本当は窓はあのねずみの形……。
わくわくしてる様子に思わず頬が緩む文章なので、ゆるやかな曲線を多用しています。


◼️知らない街へ/あひるひつじさん

風景描写がとっても素敵な文章なんですが、これを私が絵で規定するよりも想像に任せたほうがいいと思い、「住んでいる街」と「知らない街」を象徴するような文章内のモチーフを二つ描き出しています。
ただ方向としてはそれが同じになるような、続いていくような読後感だったので、犬の目線とバイクの方向は交わっています。


フレンチディスパッチという「雑誌」をテーマにした映画を見たのですが(大好きな監督の映画です)、その時に「記者による文体」が映像で表現されているように見えてめちゃくちゃイカすな〜と思いました。
また、同時期にCLASS101さんというところで講座を受け持つことになり、再度構図や色彩が与える効果を勉強し直しました。
そこから、せっかくこのように多くの人が集まっているのだからそれぞれの文体とお話の印象を組み込めないかなと思って、自分なりの解釈を落とし込みました。

表紙買いという言葉がありますが、(装画に限らず)表立つイラストには、「コンテンツを見るきっかけになる」という機能があると思っています。
なので今回、文章の素敵さが表紙ですこしでも表現できていて、興味を持ってくださる方がいたらいいなという気持ちです。

そういうことは置いておいても公式二次創作という感じで楽しかったです。
(ただ、あくまで好き勝手に描いたので、「スヤリはここが好きだったんだな〜」というくらいに思ってくれたら幸いです……。)

というか他の人が読んだらどんな印象を受けるんだろう?どんな絵を描くんだろう?なんて思っているので、感想やファンアートみたいなのもめちゃくちゃ見てみたいです!お待ちしています!


「暮らしの中にある宇宙(季節編)」は下記リンクより購入可能です。ぜひぜひ読んでみてください〜!
https://booth.pm/ja/items/3845731