七味をかける

日がなごろごろ

暮らしの中にある宇宙ー季節編ー


COMITIA140で頒布した「暮らしの中にある宇宙ー季節編ー」、は普段音楽を作ったり、絵を描いている13人が季節について書いたアンソロジーです。

光栄なことに前回(その時はちなみに音楽がテーマでした)に引き続き表紙を描かせていただきました。
それぞれのお話に宛てて描いているのですが、どんなこと考えながら描いたかをまとめました。
大きなネタバレはないですが、私の感想・目線が混じっている点はご了承下さい……!

主催のあひるひつじさんによる紹介はこちら
https://note.com/ahiru_hitsuji/n/n33e44259d810


◼️記憶/もちうめさん

春の記憶についての文章。
新芽のような感性といいますか、何気ない気づきがもちうめさんらしい言葉選びで書かれています。
人物が印象的であるようにしつつ、文体のさりげなさや気取らなさの魅力が出したかったので、シンプルな線で描くことを心がけました。
服装は完全に趣味です。刺繍襟。


◼️往来/テクナンさん

通学時間の風景について。
文中で「風景が色彩に乏しい」というような書き方がされていたのですが、その分周囲への見方がフラットなようで温かいことや、心地の良い距離感、そして一瞬の鮮やかさが印象に残る文章でした。
そこから褪せていて、かつ、柔らかい感じを出したくてこのような色選びと曲線に。

テクナンさんのあとがきです、こちらも本文読了後ぜひ……!
https://note.com/technan3821/n/n70c40036c91e


◼️ひとみっか/近藤永理さん

春にまつわる50首の句。
なんとなく重なっているような情景に連句というような趣きもあり、そこから枝葉が重なった木の影がゆるやかに広がっていく構図を作りました。
それから、漢字とひらがなの使い分けが浮遊感があって素敵だと思ったので、輪郭に硬さと柔らかさどちらも出せるように気を配りました。


◼️やどかり/スヤリ

私が書いた文章です。
じめじめした季節にやってきた生き物の話です。
テーマとして部屋の中の異物感、というのが一応あったので鬱々さをビニール傘、なんだかわからぬパンドラの箱としてダンボールを描いています。
一番手抜きの絵です(照れがあったともいう)が、まあうまくまとまったのではないかと……。


◼️すごい速さでまわる/tdさん

すごい速さで夏が過ぎていくように子供から大人になっていくことを書かれています。
「その時の考え」と現在地での客観視がすごく良くて、それが佇まいで出せれば、と思ってポージングや服装を考えました(時計をつけるか否かとか)。
大人になるにつれて考えの深度が深まっていくように、海の面積を広げています。


◼️晩夏の蛍/あきつかおるさん

帰省した夏の話。
文量があるのに勢い・テンポが良く、どんどん読み進めたくなる感じを斜めの構図とやや荒い筆致にすることで表現できないか期待しています。
会話や表現はコミカルだけれども得体のしれなさもある文章だということと、人魚がキーの文章なので、一番目立つように鯉を生々しい朱で描きました。

あきつさんは挿絵も描かれています。とっても素敵です!
https://twitter.com/sayonara7heaven/status/1521080750296416257?s=21

◼️夏の暮れにやってきた君/えびせんさん

夏の暮れの詩。そのため、入道雲と鱗雲が推移しているような空模様にしました。
読んでいるときに感じる「水平線を見ているような穏やかさ」を横に広がるようや構図で、「心のざわめき」を波のうねりで表現しています。
色彩や光がきらきら透き通っていて素敵な文章なので、色に悩みました……。


◼️愛してやまない女の子/小林透さん

ある女の子が好きな男の子の文章。
これは完全に色彩が印象的で描きたい場面があったので、そこから組み立てています。
拗ねたような男の子の文章でもあるので、視線が行ったり来たりするような階段の切り取り方、でもどこか素直さを出したかったのでライティングはスポットライトを当てるようにかなりはっきりとつけています。


◼️こみち/dyism!さん

色が重なる秋の詩。
温度は低いのですが、その分心地よさ、洒脱さのある文体です。春じゃなくて、秋の温度。
軽口の応酬が微笑ましかったので、その印象を積み重なる落ち葉の色彩に仮託しています。
木陰の描写が素敵なので描くかかなり迷いましたが、すっきりとした読後感なのでベンチの影のみに。


◼️雪/ぺこたぺちかさん

雪の日の記憶について。
遠くを見るような、振り返っているような文なので、静かなブルーグレーを基本色に(雪も映えるし)。
一方ではっきりとした人柄が見える文体でもあるので、アクセントとして赤を入れています。
それは建前として、ミラノ巻きのマフラーは絶対かわいいのでどうにか絵に入れたかった。


◼️白黒/あひるひつじさん

タイトル通り白と黒の情景。
字間の密度が高いことや「書く」ことがテーマの文章でもあるので、本、原稿用紙、メモ、そして鉛筆を文中から抜き出しました。
文章が読み手の受け取り方やタイミングで違うものになるように、原稿用紙に落ちる影は人の形としても見えるよう象っています。


◼️エンチャント・ファイア/ぽんかんさん

晦日の夜の文章。
冬は寒く、そして暑い。交わる瞬間の色めき。そんなところを動きのある構図で表現できればと思い、こんな構図になりました。色味も暗いからこそなおさら光の明るさが際立つように調整。
軽トラも描きたかったのでギリギリまでモチーフは悩みましたが、結果、結構納得行っています。


◼️冬の夢の国/粟屋やわ子さん

冬の夢の国レポート。
寂しいけど暖かい朝の空気というものを表現したかったので、かなり色彩に気をつけて描いた絵です。
某夢の国のモノレールに寄せて(あくまで寄せて)描いています。本当は窓はあのねずみの形……。
わくわくしてる様子に思わず頬が緩む文章なので、ゆるやかな曲線を多用しています。


◼️知らない街へ/あひるひつじさん

風景描写がとっても素敵な文章なんですが、これを私が絵で規定するよりも想像に任せたほうがいいと思い、「住んでいる街」と「知らない街」を象徴するような文章内のモチーフを二つ描き出しています。
ただ方向としてはそれが同じになるような、続いていくような読後感だったので、犬の目線とバイクの方向は交わっています。


フレンチディスパッチという「雑誌」をテーマにした映画を見たのですが(大好きな監督の映画です)、その時に「記者による文体」が映像で表現されているように見えてめちゃくちゃイカすな〜と思いました。
また、同時期にCLASS101さんというところで講座を受け持つことになり、再度構図や色彩が与える効果を勉強し直しました。
そこから、せっかくこのように多くの人が集まっているのだからそれぞれの文体とお話の印象を組み込めないかなと思って、自分なりの解釈を落とし込みました。

表紙買いという言葉がありますが、(装画に限らず)表立つイラストには、「コンテンツを見るきっかけになる」という機能があると思っています。
なので今回、文章の素敵さが表紙ですこしでも表現できていて、興味を持ってくださる方がいたらいいなという気持ちです。

そういうことは置いておいても公式二次創作という感じで楽しかったです。
(ただ、あくまで好き勝手に描いたので、「スヤリはここが好きだったんだな〜」というくらいに思ってくれたら幸いです……。)

というか他の人が読んだらどんな印象を受けるんだろう?どんな絵を描くんだろう?なんて思っているので、感想やファンアートみたいなのもめちゃくちゃ見てみたいです!お待ちしています!


「暮らしの中にある宇宙(季節編)」は下記リンクより購入可能です。ぜひぜひ読んでみてください〜!
https://booth.pm/ja/items/3845731

◼️

三月を詰めたびん底 覗く朝

こんにちは、にょきにょき伸びる知らぬ顔

雀の子うわさを運ぶ 春来たと

水たまり、絵の具たくさん溶けている

あと少しと思うくらいが丁度いい

酔っ払い 子供の群れにたじろいで

キャッチにも優しくなれる気がしたよ

犬がくる猫もくるくる行き交って

留めてます、頭の中だけスキップは

親指に遅れて咲かすチューリップ

忙しい

 街中に分厚いコートと薄手のコートが交互に現れる。朗らかな日は差して、植物たちも上向きに葉を向けて、元気である。それでも椿の蕾はまだ小指の爪先ほどの大きさで、春まではもう少しかかるのだと思う。


 最近はといえば、バタバタしている。なんやかんやと目まぐるしい。起きる、仕事をする、ご飯を食べる、寝る。やることをそこそこサボりつつ、ヤダヤダ言いながらこなす。
 これでご飯にありついているのは確かなので、「ありがたい、ありがたい」と呪文のように唱えるが、日に日に精神か何かがすり減っているような気がする。

 それを防ぐために、100g58円の鶏胸肉の皮だけ避けておきここぞとばかりにバター醤油で食べるだとか、シャウエッセンナポリタンを作るだとか、そう言う小さな楽しみで機嫌をとってきた。しかし何にもマンネリはある。馴染み深い安心安定の実家も必要だが、たまには新しい場所に出かけてみたい。

 そういうわけで読書感想文を始めた。昔は「なぜ人に伝わるように書かなければいけないのだ」と苦手にしていたが、そもそも人に向けて書く必要はないと言うことに気づいた。なにかしらの書き物をしよう、というときに「視線を意識する」のも一つの手段なのかもしれないけれど、私がやりたいのはそう言うことではなかった。記録、記憶。誰かに見せるわけでも、誰かが採点するわけではないのだから。


 本を読んでいると考えが濁流のように押し寄せて、つい上を見る。全てが溢れていくような感覚になって、その時に思い浮かべるのはなぜか星なのだ、きらきらとした、目まぐるしく、鮮やかな。
 素晴らしいと思えることは流れ星のようにすぐ消えてしまって、掴めても一部だ。起きた時に忘れてしまう夢と同じ。ただその残り火を温めて木を足し、息を吹き込み育てることはできるのだって知っている。だから追いかけてしまうのだ。
 

 本の隙間に読書感想文を挟んで、少しだけいい気になった。
 中学生の頃、本の隙間にへそくりを隠していた。忘れた頃にそれらは見つかって、予期せぬ喜びを得たものだ。日付不明のメモ、行ったことも忘れた場所の写真、昔のノート。過去の記憶はくすぐったくて、恥ずかしくて、同時にとても温かい。

 突然記憶が繋がって、なにかの物種になることがある。乱雑に重ねた色がこの上なく美しく見えるように、そういう偶然を待ち望んでいるのかもしれない。

蛇足


 真新しい部屋には、特別なもの以外何もなかった。

 2枚のCD、本が1冊、好きな映画のポスター、彼から貰った灰皿、それから椿の苔玉、それで全部。

 あとは引越し業者を待つばかりだった。CDを持ってきたはいいけれど結局流すものがないのは失敗だった。ラジオ付きの音楽プレーヤーでも探そうかな、そんなことを考えて光がさしている床に寝転がった。
 
 本の中にはたくさんの東京の地名が出てきて、それでも行ったことがない場所は多かった。
 生まれてからずっと東京に住んでいる。狭い空もどこまで行ってもキリがない同じようなビルも、ごちゃごちゃした街角もなんだかんだ好きだった。

 昔、恋人と一緒に住んでいたのは墨田区だった。引っ越した当初に「墨田区のラップを作りました」と言って徐にビートを流し始めたことを覚えている。「墨田区◯◯2-5-6」、居住地が入ったそれは、もうそこには住んでいないのに何某かで住所を記載する時に邪魔してくる厄介で、愛おしい記憶だった。そんなことももう三年前のことだった。結局、今回は一緒に住まないことになった。

 東京の曲が聴きたくなって、くるりを流した。次は、EMC、銀杏BOYZ、林檎。知っている「東京」を繋いでいく。チャットモンチーの東京はちみつオーケストラは残念ながら私には当てはまらない。上京したことがないからだ。大好きなアーティストなだけに、ちょっとしょんぼりする。それでも友達のことを考えて、主人公はきっとあの子なのだろうというようなことを思った。

 サニーデイ・サービスを聴き始めた頃、チャイムの音が鳴った。ピンポーン。昼に来るって言ってたのに、もう二時。いつも通り、彼は遅刻だ。そんな日常と新しい部屋は同時に存在していた。


◼️


 彼は良くも悪くも全てを受け入れる人間だった。

 短い話を書いたのだ、ということは告げていた。というか、その場で書いてその場で見せた。いい気分だったから、調子に乗ったのだ。

 下校した小学生が今日あったいいことを話すように、彼には何でも話していた。ただ、なんとなく文庫本になってから他のお話は読んでほしかった。だから曲だけ聞いてよ、なんて無理強いをした。

 お話が出揃ったとき、嬉しくなって、勝手にそれぞれの話に合うようにプレイリストを作ったのだ。
 もちろん曲名がないお話もあった。だから、色々と悩んだ。ゲーム音楽の中だったらどれかな。管楽器の音色が素敵な曲があったからこれかも。パンクからのつなぎはどうしようか。この曲、好きなんだよな……。そんなことを考えながら作ったプレイリストだった。

 それらが終盤になったとき、彼が言った。
「この曲好きなんだよね」
「そうなの?」
彼はあまり洋楽を聞かないから、不思議に思って聞き返した。昔のことを思い出すように、彼が言った。
「お母さんが好きで、車で流していたんだ」
 
 話の内容を彼は知らないはずなのに、奇妙な符号におかしくなった。まるで知っていたみたいだ。
 
 刊行される本の「親父」は「おふくろ」に変わっている。それを早く伝えたいと思った。


◼️


 やっぱり、彼女のSNSは更新されてはいなかった。
 
 こんなことはネットストーカーみたいだが、それでも知りたくなってたくさん彼女のことを調べた。どこかの記事で書いた昔のこと。askでファンの悩みに彼女の言葉で返していること。

 soundcloudに上がっている曲に気づいて、少しだけ嬉しくなった。寂しくてもこんなことで泣かないでって、彼女はいつでも言っている。


◼️


 茹だるような暑さの中、準備を何もしていないことに気づいた。あらかた全てが揃っていている、そこは自分の部屋だった。大嘘つきの映画を見た。大学二年生、映画を特別見るようになった夏、一番好きな映画だった。最後の方だけでも面白い、なんて友人が言ったことを思い出した。魚が跳ねる。虚構と現実を行き来して、きっとほんとうのことはどちらでも構わない。 言葉を選んで、伝わるかはわからない好意を押し込める。本と栞を、一緒の引き出しにしまった。気取った儀式をしても、汗は首をつたっている。


◼️


 高校の友人と電話をした。

 彼女は大学を卒業した後、医学部に入り直して、四月からは仙台にいた。
 いつでもゆるゆると喋るわりに、彼女は真っ直ぐ生きている。だから、うまく行かないことがあっても、なんとなく頑張れるのは彼女のおかげでもあった。

 お互いの近況、同級生がいつの間にか結婚したことなんかを話して、それから、ふと気になって電話口で彼女に問うた。
「ねえ、好きな聖歌って覚えてる?私、312番しか覚えてなくて」
「え〜番号なんて覚えてないよ」
「そっか〜……」
声のトーンが落ちたのを気にしてか、知っている歌詞を彼女が言う。
「え〜と、ガリラヤのやつとか」
「風薫る〜丘で〜だね」
「あとタリタクム……」
「少女よ、自分の足で立て」
番号は覚えていなくても独特の単語は覚えていて、私は呼応するように歌詞を口ずさんだ。
 じゃあ、きっとこれも覚えているはずだ。
「312番は、あれだってば、いつくしみぶかき〜」
「友なるイエスは〜!だ」
 彼女も、我が意を得たりとばかりに歌い出した。そこから、曖昧な歌詞を二人して歌って、笑った。

 なんだか、遠くに居た彼女がそばにいる気がした。


◼️


 駅前にある喫茶店はごみごみとしており、気にいる喫茶店の条件どんぴしゃ、というわけにはいかなかった。それでもなんとなく、居心地のいい空間だった。

 いかにもというような少しガラのわるいおじいちゃんが二人組で座っている。語気が強いのか、ただ呂律が周りきっていないのかは判別がつかなかったが、話の内容はあまり聞き取れなかった。それに気を取られてしばらくは気づかなかったが、ふと店内のBGMに耳を傾けると「Hey Jude」だった。
 ドライカレーを食べながら、今度はおじいちゃんたちの会話はフェードアウトして行って、私は音楽に耳を傾けた。どうやら店主はビートルズが好きなのかなんなのか、それ以外は流れないようだった。思ったよりも美味しいコーヒーを飲む。

 やたらとビートルズの引用が多い文章たちのことを思い出して、もう一度読み返したくなった。頭の中にたくさんの文章がめぐる。まだ、文庫本は手元にない。でもきっと、いい本になるだろう。

「暮らしの中にある宇宙」について


コミティア137で頒布予定の「暮らしの中にある宇宙」について、感想のようなものを書いています(著者名50音順です)。
どういう本なのか?というのは主催のあひるひつじさんが試し読みサンプルをあげておりますので是非見てみてください〜!

COMITIA137『暮らしの中にある宇宙』紹介記事|あひる|note



感想はこの下からになります。
なるべくネタバレにならないようにはしていますが、少しだけお話の紹介もしています。
めちゃくちゃ烏滸がましいですが、購入を迷われている方などの参考になればと思います〜〜!


◼️あきつかおるさん
星屑
星々について、人について。
冒頭で概念についてかな、と思ったら世界観がものすごく爆発しているお話です。
すごいものを読んだ。
人は音楽にいろんな気持ちを託しますが、祈りもまたその一つなのだろうと思いました。


◼️あひるひつじさん
パンクス・ネバー・ダイ
後輩のライブに行く話。
輝いているものを見たときに嘘くささと同時に羨望のようなものを覚えるので、この文章を読んだ時にダメージを受けました。
もちうめさんの「一日」といい意味で真逆な印象があります。

エスタデイ・ワンス・モア
フラッシュバックのような文章。
読んだときに夢十夜を思い出しました。
ぐるぐると歩き回っているような、どこにいるかわからない感覚。
この本を読み終わった後に、もう一度読みたくなるお話です。

ヒア・カムズ・サン
友人とのドライブの話。
心情や情景と音楽がぴったりと当てはまった瞬間のことってずっと覚えていると思います。
最初にこれが「サンプルです」と送られてきたので、「めちゃくちゃハードルあげるじゃん」と思った記憶があります。


◼️粟屋やわ子さん
LUNARIA

負の感情についてと、そこからの救いになった音楽のことが静かに書かれています。
題材が重いはずなのですが、情景はするりと水のように入ってきて、どこかきらきらしています。
最後のゆるいイラストがどうもクセになるので、何度も見てしまう……。


◼️えびせんさん
音楽の話。

子供の頃から今にかけて、音楽にどうやって触れていっていたのかが、追体験するように書かれています。
大きく変わらずとも少し踏み出せるような、眼差しがやさしくてやわらかな印象があります。
なんとなく、放課後の教室を思い出す文章です。


◼️小林透さん
悩んで歌って子供みたいに

河川敷で出会った女の子のお話。
モラトリアムといいますか、なんというかませた子供や、キザな台詞を見たときに感じるむず痒さがありました。
分かってはいても、そういうものを好かずにいられないのってなんだか癪ですよね。


◼️近藤永理さん
音楽との出会い方を再考する。

たくさんの音楽とその出会いについてが書かれている文章です。
拾いどころが多すぎてちょっと困ってしまうのですが、たくさんお話を聞いているような、そして自分も好きなものを喋りたくなるような気持ちになります。

こえとすいそう
好きだった人に会いに行く話。
普段楽しげな人が、時折寂しさみたいなものを見せることがあります。
それに対して好きとも違いますが、好ましいというふうに感じることがあって、その言語化しにくい感情を思い出す文章でした。


◼️スヤリ
聖歌312番
女子校時代の話です。

君と私のソネット
恋人の話です。

ななちゃん
好きな女の子の話です。

青春の日々
友人の話です。


◼️dyism!さん
街中華にて

中華料理屋とパンクについて。
読むとなんだか気持ちのいいアクション映画を見た後みたいな気持ちになります。
ワードセンスとご飯が美味しそうなところが好き。
それはともかく、冒頭の写真から受ける楚々とした印象とパンクの話との差がすごいな。


◼️tdさん
『V散華のちR邂逅』

ヴァーチャルとリアルの話。
読んでいて、「予感」や「変化」みたいなことを考えさせられました。
今回の本の中でも、特に映像を自然と想像してしまう文章で、静謐な空間に凛とした音が聞こえてくるような感じがします。


◼️テクナンさん
特別でない嗜好

音楽を好きになったきっかけと、その後の偶然についてが書かれています。
「他人との感動の共有」に対する気持ちにストンと納得し、共感する文章でした。
秘密のトワレ、ものすごく好きになってしまい、ヘビロテして聞いています。


◼️ぽんかんさん
あせばむふゆ

鳥取の工業高校でのお話。
「もしかしたら友達になれたかもしれない人」って過去を振り返ってみるといて、読みながら自分の経験を重ねたりしました。
地の文の「僕」と会話文での「俺」に対比を感じて、そこがすごく好きだなと思います。


◼️もちうめさん
一日

日常のそばにある音楽が電車やライブ、おしゃべりといった情景とともに書かれており、わくわくが伝わってきて思わずニコニコしてしまいます。
自分が卑屈な人間になったと思っているので、眩しいくらいかわいい文章にやられてしまいました……。


表紙を今回かかせてもらった関係で、実は文章を先に読ませてもらっていました……!(なるべく要素を拾って書いた表紙なので、そちらも詳しく見てくれたら嬉しいです)
題字はえびせんさん!とってもかわいい…

全体を通して、本当にそれぞれの物事の見方を感じる短編集だと思います。
音楽や絵を作っている人たちが文章という違うツールに落とし込んでいるのに、むしろ文章を読んだからこそ普段の作品との答え合わせがされたような楽しさがありました。


また、しおりの絵は、文章を書いた人とは違う人がそれぞれのお話をテーマとして描いたものになっています。
これもお話が、他の人の見方で再構成されているようで面白かったです。

ともかく、購入して頂けたらとっても嬉しいなって思います。ぜひ読んでみてください!


おわり

◼️

灰落とす動作、未だにぎこちなく

白湯飲んでモデルになれれば楽なのに

銀色のひかりが鈍くなっていく

部屋に浮く生活のくず、朝日さす

白い溝なぞり色はつかぬまま

知ったかをしてまで君に好かれたい

電波から違う空気の匂いする

奥歯には詰まった弾丸不発弾

ふわふわとすべすべどちらもえらべない

末っ子の特権捨てて大人ぶる

‪喫茶店ストローの指輪くすり指

押入れに潜む宇宙に忍び込み

パンタ・レイ


友人から、ライブのチケットが届いた。

 
アイドルにハマったのは社会人になってからだった。
新卒で入った会社は、いわゆる男社会で、飲み会も盛んだった。毎日、喫煙所で分からない会話にとにかく頷いて愛想を振りまいていた。それしか出来ることは無かったから。

そんなわけで家に帰るともう何にもやる気がしなくて、服も着替えず床に寝そべって、動画サイトを永遠に彷徨っていた。
何かを探していたわけでは無くて、偶然にその動画は目に入った。キラキラした女の子たちが、一生懸命に歌って、踊っている。そこからはもう、トントン拍子に、アイドルオタクの出来上がりだ。

 

私が好きになったのは「ハロー!プロジェクト」、通称「ハロプロ」という、女性アイドルグループが所属する団体だ。ある程度の年代であれば、「モーニング娘。」は聞いたことがあると思う(私は「アンジュルム」っていうグループが一番好きだ)。
正直に言えば少しださくて、でも前向きな歌詞(すぐに愛を歌う)。それから、バキバキのダンスに本当に生で歌っているの?ってくらい上手い歌。それぞれが自分のかわいいやかっこいいをやっている姿。そんなところが大好きになった。


すっかりハロプロの沼にズブズブと沈んでいった頃、とある高校時代の友人もハマっているということを知った。多分二年間くらいまともに連絡も取っていなかった。

メッセージを送りあって盛り上がって、そのまま一緒にライブに行くことになった。大盛り上がりした帰りには飲み屋さんでどの子が推しだ、どの曲が好きだなどと話して、久しぶりでもこんなに話せるんだなと少し関係ないことを考えたりした。

恥ずかしながらそこで絵のアカウントを教えて「〇〇の字だって思った」と言われて、絵の感想じゃないじゃん、と気恥ずかしさから突っ込んだ。そうか字を見る機会も無くなったのか、と月日が経ったことを感じながら。



春にひなフェスというハロプロ全体で行うコンサートがある。どうやら彼女はいけなくなってしまったらしくて、私が代わりに行くことになった。

封筒でチケットは届いた。
彼女の字を見るのは久しぶりだった。 そこには彼女特有の、丸っこく、しかしながら読みやすくどこかのびのびとした字が並んでいる。

「また一緒にライブ行こうね」と添えられた手紙には書かれており、大人になるのは悪くないことかもしれないって思った。



おまけ

『大器晩成』という曲がある。2014年までスマイレージ、という名前からアンジュルムに変わった際にリリースされた曲だ。サビの歌詞は当時のリーダーである和田彩花から、2014年の新メンバーであった室田瑞希が連続で歌うパートになっている。
アンジュルムはパフォーマンスの要になっていた子が次々と抜けていっている状態だった。室田瑞希もその一人で、はたしてそのパートは誰が歌うんだろうとファンは予想しあっていた。

現在のリーダーである竹内朱莉が歌う。
「何にも惑わされずに」
フォーメーションも激しく変わる歌だ、遠目からは誰が次を歌うのかは分からない。
「どんな時代にも流されずに」
松本わかな、14歳。新メンバーの中でも最年少。高らかに歌い上げる姿に、間違いなくこれは世代交代なのだと感じて、コロナ禍、声を出せないライブ会場にもどよめきが走った。
今日もアンジュルムは最高最強です。